令和3年度も残すところあと4か月となりました。新型コロナウィルスの国内の新規感染者数は1日あたり100人以下が続き、ほっと息がつける今日この頃かもしれません。これから冬になると乾燥が強くなり、例年同様にインフルエンザやノロウィルスへの予防対策が待っています。改めて準備を進めてまいりましょう。

さて、昨年度ほとんどできなかった実地指導は令和3年の9月以降に加速度的に再開されているようです。私のクライアントでも9月以降毎月どこかが実地指導を受けていますので状況は明らかに昨年とは異なります。そこで、「実地指導に強くなる(中編)」では実際に実地指導で得られた情報に基づいて運営や共通の指摘事項で指導されやすい事項についてまとめていきたいと思います。

「実地指導に強くなる(前編)」はこちら

共通する指摘事項について

運営で必ずと言って良いほどチェックされるのは、人員基準関係、防災訓練や衛生管理、契約書等の書類関係です。人員基準は介護報酬の返還に直結するのでとりわけ日ごろから注意しておかなければいけない事項です。人員の充足状態や資格については明らかに日ごろからわかることなので、スタッフの入退職がある都度、問題がないことを確認しておく必要があります。

人員基準と配置基準

普段は充足しているにも関わらず、シフト上で人員基準が問題になるケースがあります。介護保険は、常勤換算という独特な考え方で人数をカウントします。このことに異議はないのですが、常勤スタッフと非常勤スタッフで異なる取り扱いとなるのが、有給休暇や出張の取り扱いです。常勤スタッフが有給休暇で休んでも、常勤換算では勤務時間に算入されますが、非常勤スタッフが有給休暇で休んだ場合は、常勤換算では勤務時間に算入されません。不本意ながらずるずるとお休みが続いてしまった非常勤がいた場合に、結果として人員基準を下回る形で現場が回ってしまったということにもなりかねませんので、人員基準スレスレの状況である時は注意しておく必要があります。

職種のうち看護師の確保が難しい状況が続いている事業所が多いと聞いています。そのため、看護師を常勤ではなくパートタイマーで複数人を雇って現場を回している場合もあると思います。資格が重要になる職種についても同様に日ごろから注意を払っておく必要があります。

防災訓練

防災訓練や衛生管理は、最近、災害(地震、水没、土砂崩れ等)が身近になってきたこともあり、より重要なポイントとして確認されるようになりました。通所系では年に1回、入所系では年に2回の防災訓練が義務付けられています。特に入所系では2回のうち1回は夜間を想定した訓練とする必要があります。防災訓練はより具体的な状況を想定して行うことで、いざ起きた時に利用者のみならず職員の減災につながります。気候の良い時期を選んで実施することをお勧めいたします。

指導されやすいのは、防災訓練の計画表がなかったり不十分であったり、また、せっかく実施しても実施記録がなかったりお粗末なものだったりした場合です。毎年実施するものなので、来年のためにも記録はしっかりと残しておいたほうが良いです。記録は文字だけはなく、避難状況の写真を添付しておくと指導時のアピールにもなります。もちろん、来年の防災担当者のためにもなるので、写真の添付は必須です。

防災訓練は、実際の避難のみならず、日ごろから避難経路に段ボールなどの物品を置いていないか、消火器の設置状況や使用期限も確認しておきましょう。コロナ以前は視察が行われて指導されていましたが、現在は視察が中止されていますので、自分たちで管理しておく必要があります。

衛生管理体制

感染症対策については、新型コロナウィルスの影響もありどの施設も事業所も注意は受けていない印象です。一方でアルコールや次亜塩素酸ナトリウム等の薬品、マスクやディスポ手袋等の備品管理については、これまで以上に注意してください。改善事項といった大きな指摘事項には至らないですが、せっかく設置したアルコールスプレーの容器が空だったり、無造作にアルコールや次亜塩素酸ナトリウムの予備が置いてあったりすると、管理がおざなりになっているといった負のアピールになってしまうほか、誤飲や盗難事故を誘発してしまうので、きちんと倉庫や戸棚にしまっておきましょう。

そのほか、令和6年3月31日までの期間は努力義務となっていますが、感染症対策委員会の開催等、虐待防止対策検討委員会の開催等、業務継続計画(BCP)の策定等があります。その他、令和4年4月1日から義務化されるハラスメント防止措置があります。これらの取り組み状況が実地指導の中でヒアリングされています。取り組みがまだ行われていない事業所の場合、いつ頃から取り掛かりますという形で応答できると良いと思います。

〇 感染症対策委員会の開催等
〇 虐待防止対策検討委員会
〇 業務継続計画策定(BCP)
〇 ハラスメント防止措置

上記4つの経過措置項目について大分県大分市のWebサイトでわかりやすくまとめて掲載してありましたので、参考としてURLを記載します。
https://www.city.oita.oita.jp/o081/kaiteipoint.html
(大分県大分市のWebサイトが開きます)

契約書関係

運営規程、契約書、重要事項説明書は重要な書類です。特に重要事項説明書は、介護保険制度が改正された場合には、単位が変わったり、新たに加算が創設されたりするので修正が必要になります。もちろん、制度改正後のサービス開始までに同意をいただいておく必要があります。そのことをわかっていながら、手間や時間がかかることから後回しにしてしまいがちです。当然ながら、実地指導時には、適切に修正されていることや同意を得ているかがチェックポイントになります。特にご利用者の同意日がサービス開始よりも後になっていないかどうかは要注意です。

一方で、運営規程や重要事項説明書は事業所に入口などに掲示が必要な書類です。この掲示については、一度貼ってしまうとそのままにされてしまうケースが目立ちます。利用者にはしっかりと対応していても、掲示されているものは古く紙も茶色がかっているケースも見受けられます。見落としやすい部分になりますので、利用者に修正版を交付したタイミングで掲示物も貼り替えるようにしていきましょう。

事故と苦情の記録

どの介護サービスにおいても実地指導では、事故と苦情について記録を確認されます。事故の場合、特に利用者事故の中でも骨折や離設等一定の重大な事故は行政へ届け出る必要があります。一方で大事には至らなかった届け出が必要のないレベルの事故は日常的に起こっているはずです。これは、ハインリッヒの法則で、重大事故1件の裏には、軽微な事故が29件起きていて、さらにヒヤリ・はっとした事故が300件あると考えられているからです。行政では、この裏に潜む軽微な事故やヒヤリ事故について、介護事業所で情報を共有して日ごろから事故防止に努めているのかをチェックします。

苦情については、あまり気にされない事業所もあると思いますが、苦情と要望は裏返しの関係にあり、これらをうまく利活用できれば利用者に選ばれる介護事業所となり、利活用できない場合は評判を落としてしまうことにもつながりかねません。行政としては介護事業所に対して行われていた苦情がうまく処理されない場合は、直接役所に苦情が来ることを理解しています。その場合、良くない方向に向かってしまうのでできるだけ介護事業所と利用者の関係の中で解決を望んでいます。しかし、些細な苦情や要望でもボタンの掛け違いで大きな事件(裁判等)になってしまう可能性もあります。そのため、苦情・要望についてはしっかりと記録を残しておくことが求められます。

業務日誌や会議・研修の記録

業務日誌や会議・研修の記録は特段フォーマットが決まっているものではありません。しかし、どこの介護事業所の中でも作成されています。日々継続して作成していくことが重要です。ところが、職員や資格者が退職して記録が途絶えてしまうことや、日々の業務に忙殺されてうっかり後回しにしてしまったが最後、数か月滞ってしまうことがないよう、管理者やリーダーは作成担当者に日誌や記録を確実に提出させて目を通しておくことが大切です。記録類は、最近はITによる電子記録を導入している事業所も増えているようですが、まだまだ紙が主流だと思います。しっかりとリングファイル等に綴じて、紛失してしまうことがないように管理しておきましょう。

介護職員処遇改善加算関係

介護職員処遇改善加算は必ず確認される事項です。ほとんどの事業所で加算をとっているため確認をスルーされることはありません。基本的な確認事項として、給与明細書に処遇改善とわかるように支給状況を記載していることや職員に周知しているかどうかが確認されます。さすがに介護職員へ支給せずに事業所で留保しているといった初歩的なミスは見受けられませんが、介護職員処遇改善加算の制度はこれからも変遷していくと考えられますので、しっかりとキャッチアップしていきましょう。

「実地指導に強くなる(後編)」では、介護保険の各サービスで指摘されやすい事項を見ていきたいと思います。

参考URL

介護保険法施行規則第 140 条の 63 の6第1号に規定する厚生労働大臣が定める基準について(令和3年月19 日)(介護保険最新情報 Vol.945)(WAMNETのホームページが開きます)

介護記録の電子化について

ここまで記事を読んでいただきありがとうございました。上記のように実地指導では様々な記録を確認されます。とはいえ日々の記録をとることに時間がかかりすぎていては、利用者への適切なサービス提供や職員の労働時間へ支障をきたしてしまう場合もあるでしょう。そんなときは介護記録の電子化を検討してみてはいかがでしょうか?
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藤尾智之氏
税理士・介護福祉経営士

1996年、法政大学経済学部卒業
2000年、社会福祉法人に入職後、特別養護老人ホームの事務長として従事する。
2011年に税理士試験に合格し、大手税理士法人を経て藤尾真理子税理士事務所に入所。介護、障害を中心とした社会福祉事業に特化した経営サポートを展開する一方、社会福祉法人の理事や監事、相談役を務める。
著書に「税理士のための介護事業所の会計・税務・経営サポート」(第一法規)がある。
さすがや税理士法人URL: https://fujio-atf.jp/