どのような世界にもマニア、好事家の類はいるものです。 世にも珍しい介護保険請求のマニアの部屋へようこそ。 このマニアの部屋でご紹介するのは、介護保険の料金計算のルール。 本当は、こんなこと知らなくてもいいんです。だって、全部請求ソフトが全部計算してくれますから。 でも、知っておくとちょっと、ほんのすこーし、便利かもしれません。

請求のおねえさん

ナビゲーターは、介護保険請求マニアである「請求のおねえさん」。細かな国保連請求ルールと格闘するうちに世にも珍しいマニアになりました。
好きな本: 精霊の守り人(上橋菜穂子)

    羊さん

    今日のお相手は、介護事業所で働く「羊さん」。最近国保連請求を担当することになりました。
    好きな本: 羊をめぐる冒険(村上春樹)

      今月ケアマネさんから来た提供票別表を眺めていたのですが、不思議なことに気づいたんです。

      提供票別表は、利用者さんに提供するサービスや単位数、金額の書かれた紙ですね。どんなことろが気になったのですか?

      単位数の「合計」のところが不思議なんですよね。1個ずつサービスや加算の単位数を足し算してみると、合計単位数に含まれる加算もあれば、含まれていない加算もあるような…。

      よく気がつきましたね。加算やサービスによっては、単位数の合計に含まれないものもあるんですよ。前回勉強した「区分支給限度基準額」は覚えていますか?

      はい。介護度ごと介護保険の使える上限がある、というものでした。

      そうですね。利用するサービスを合計し、区分支給限度基準額をオーバーしたら全額自己負担になるわけですが、実はその合計に入らない例外があります。今日は前回の復習をしながら例外を見てみましょう。

      区分支給限度基準額が適用されないサービス

      「居宅療養管理指導」や「居住系サービス(短期利用を除く)」は限度額が適用されない。

      介護保険サービスは無制限に使えるものではありません。介護度ごとに、使える単位数の上限「区分支給限度基準額」が決まっています。

      ケアマネージャーさんは、利用者さんが使う介護保険サービスの単位数を合計し、区分支給限度基準額を超えていないか確認したり、オーバーしてしまったら全額自己負担に調整したりという作業をしています。これを「区分支給限度額管理」と言います。詳しくは、「第5回 区分支給限度基準額 前編」をご覧ください。

      「区分支給限度基準額」は全てのサービスに適用されるものではなく、いくつか例外が存在します。

      ① 居宅療養管理指導

      「居宅療養管理指導」は、医師・歯科医師・薬剤師・管理栄養士・歯科衛生士等が、通院が困難な利用者宅を訪問して療養上の管理や指導を行うものです。

      医師等が「居宅療養管理指導」を行うべきかどうか判断して実施するので、区分支給限度基準額は適用されません。

      ② 居住系サービス(短期利用を除く)

      グループホームや特定施設(※1)など、利用者さんが居住しながらケアを受けるタイプのサービスは、他のサービスと組み合わせて利用することがありません。「いろんな介護サービスを利用して適正量を超えてしまう」という事態が起こらないので、居住系サービスは区分支給限度基準額が適用されません。

      ※1 外部利用型特定施設の場合は、外部利用型特定施設専用の区分支給限度基準額が適用されます。

      区分支給限度額管理の対象外の加算/減算

      ・政策上の配慮により限度額管理の対象外になっている加算/減算がある
      ・限度額管理の対象かどうかは「算定構造」で確認できる

      政策上の配慮や、保険給付の公平性を担保するために限度額管理の対象外になっている加算や減算があります。いくつかを例にとって見てみましょう。

      例1 サービス提供体制強化加算

      「サービス提供体制強化加算」は、介護従事者の専門性を評価しキャリアアップを推進するために作られました。ざっくり説明すると、有資格者の割合が高い事業所、勤続年数の長い職員の割合が高い事業所が算定できる加算です。実はこの加算が作られた当初は、区分支給限度額管理の対象の加算でしたが、より多くの事業所で算定しやすくするために平成27年度の報酬改定で区分支給限度額管理の「対象外」に変更されました。

      限度額管理の対象外になると「加算を算定しやすくなる」のはなぜでしょうか?

      理由は利用者さんの目線で考えるとわかってきます。介護職員さんの専門性が上がったりキャリアアップしたりすることは、利用者さんにとってももちろん良いことですが、サービス提供体制強化加算が限度額管理の対象だと、限度額を圧迫してしまい、保険給付されるサービスの回数が減ってしまうかもしれません。

      「サービス提供体制強化加算を算定する事業所でサービスを受けると回数が少なくなるから」という理由で、せっかく良い取り組みをしている事業所が選ばれにくくなってしまうのはもったいないことですね。その加算を取るのをやめておこうかな…と考えてしまう事業所も出てしまいます。
      多くの事業所で積極的に算定してもらえるように、「サービス提供体制強化加算」は限度額管理の「対象外」に変更されました。

      例2 同一建物減算

      「同一建物減算」は有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅のような集合住宅に居住する利用者さんにサービスを行う場合の減算です。集合住宅で一括して行うサービスの方が、一軒一軒のお宅を回るサービスよりコストがかからないことを考慮したものです。この減算も当初は区分支給限度額管理の対象となっていました。 減算ですから1回あたりのサービス単位数が少なくなるわけで、そうすると同じ区分支給限度基準額なのに、集合住宅に住んでいる人はたくさんのサービスを使えて、そうでない人は少ない、という不公平な事態になってしまいます。

      保険給付の公平性を担保するために、「同一建物減算」は平成30年度~令和3年度の改正にかけて限度額管理の「対象外」に是正されました。

      上記のような限度額管理の対象外の加算/減算もあれば、限度額管理の対象となる加算/減算ももちろんあります。この加算/減算は対象かな?対象外かな?と調べたいときには、厚生労働省が発表している「介護報酬の算定構造のイメージ」という資料で確認できます。

      参考資料:介護報酬の算定構造のイメージ(PDF) (令和3年4月改正時のもの) [WAMNET(外部サイト)が開きます]

      下の画像は介護報酬の算定構造のイメージの資料から、訪問介護の算定構造を抜粋したものです。 区分支給限度額管理の「対象外」の加算/減算は、点線の枠で表現されています。ぜひ参考にしてみてください。

      参考資料

      ※いずれもこの記事を書いた令和4年1月時点の情報です。必ず最新の情報で確認してください。

      介護報酬の算定構造のイメージ(再掲)

      介護保険事務処理システム変更に係る参考資料(確定版)の一部訂正(令和3年4月27日事務連絡)
      「Ⅰ介護報酬改定関係資料」 資料1 介護報酬の算定構造のイメージ(PDF)
      https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2021/0331152930586/20210331_001.pdf
      [WAMNET(外部サイト)が開きます]

      区分支給限度額管理に関する資料

      第145回社会保障審議会介護給付費分科会資料(平成29年8月23日(水))
      参考資料3 区分支給限度基準額(PDF)
      https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000175118.pdf
      [厚生労働省のWebサイトが開きます]

      第115回社会保障審議会介護給付費分科会資料(平成26年11月19日)
      資料10 区分支給限度基準額について(案)(PDF)
      https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000065681.pdf