介護事業とは切っても切れない関係の実地指導について、「実地指導に強くなる(前編)」「実地指導に強くなる(中編)」と、ご案内してきました。最終回となる今回は、居宅サービスの中でも特に事業所数が多い、通所介護、訪問介護、居宅介護支援事業の3つの介護保険サービスについて実地指導で指摘される事項を確認していきます。

通所介護

通所介護計画について

通所介護計画は、居宅サービス計画に沿って作成することとなっています。そのため、居宅サービス計画に位置付けられていないサービスを提供することはできません。また、通所介護計画の内容について、利用者やその家族に対して説明するとともに同意を得ておく必要があります。実地指導として指摘されやすい事項を下記に掲載いたします。

〇 居宅サービス計画書(第1表~第4表)は受領していますか?抜けているものはありませんか?
〇 通所介護計画や機能訓練計画は、居宅サービス計画に位置付けられていますか?
〇 通所介護計画の内容は、事業所内でアセスメントを行い、日常生活上の課題に対して個別の目標を立てていますか?
〇 個別の目標は居宅サービス計画書の目標の丸写し(転記)になっていませんか?
〇 通所介護計画の内容について、利用者がその家族に対して説明と同意は済んでいますか?      
〇 利用者の同意の意思と同意した日付が確認できますか?

生活相談員の配置について

生活相談員は、サービス提供時間帯を通じて専従で1名以上配置する必要があります。専従とは生活相談員の業務に専ら従事するということを意味します。勤務表上配置しているだけでは良いというものではありません。

〇 生活相談員が、送迎時の添乗、居宅介護支援事業所への営業、研修への参加等で中抜けとなっていませんか?
〇 生活相談員の中抜けが予定されている場合、他の有資格者を生活相談員として配置していますか?

サービス提供記録の保存について

介護サービスを提供した場合には、その内容を記録として残す必要があります。記録とは、介護・看護・機能訓練・入浴等の直接的なサービスのほか、事故(ヒヤリハット含む)・苦情(要望含む)・各種研修・委員会議事録、避難訓練実施記録、送迎車両運行記録などがあります。実地指導は書類の確認がすべてです。記録がなければきちんと実施していても、実施していないものと判断されてしまいます。

〇 認定更新時や区分変更時にもアセスメントを行っていますか?
〇 入浴の記録は、看護記録や入浴チェック表と整合がとれていますか?
〇 介護サービスを提供していない日にも関わらず報酬を請求していませんか?
〇 発生した事故のうち行政に報告する内容にもかかわらず報告を怠っていませんか?
〇 送迎車両運行記録には、出発・到着時間、利用者名、運転者名、添乗者名が記録されていますか?
〇 送迎車両運行記録の時間は、サービス提供時間と矛盾はありませんか?

その他について

〇 レクリエーション費用として一律の金額を利用者から徴収していませんか?
〇 事業所規模区分について、通所介護費の算定に当たって、毎年度3月31日時点において前年度の平均利用延人員数を確認していますか?
〇 運営規程に定めたサービス提供時間と実際のサービス提供時間に乖離はありませんか?
〇 苦情の受付方法について重要事項説明書への記載や事業所内に掲示が行われていますか?
〇 職員の雇用に際して、雇用契約書や労働条件通知書を作成していますか?
〇 職員と秘密保持について、就業規則による順守や守秘義務誓約は行っていますか?

訪問介護

訪問介護計画について

訪問介護計画は、居宅サービス計画に沿って作成することとなっています。そのため、居宅サービス計画に位置付けられていないサービスを提供することはできません。また、訪問介護計画の内容について、利用者やその家族に対して説明するとともに同意を得ておく必要があります。

〇 サービス提供責任者ではない管理者が訪問介護計画を作成し、交付していませんか?
〇 居宅サービス計画書(第1表~第4表)は受領していますか?
〇 訪問介護計画は、居宅サービス計画に位置付けられていますか?
〇 訪問介護計画に位置付けたサービス提供時間と異なる時間でサービスを提供していていませんか?
〇 訪問介護計画の内容は、事業所内でアセスメントを行い、援助目標は具体的に個別の目標を立てていますか?
〇 個別の目標は居宅サービス計画書の目標の丸写し(転記)になっていませんか?
〇 訪問介護計画の内容について、利用者やその家族に対して説明と同意は済んでいますか?
〇 利用者の同意の意思と同意した日付が確認できますか?
○ 定期的に評価を行って、計画を見直していますか?
〇 前回提供した訪問介護からおおむね2時間未満の間隔で訪問介護を行っている場合に、それぞれの所要時間を合算していますか?
〇 記録上のサービス提供内容と実際に請求した訪問介護費の区分に相違はありませんか?
〇 サービスの提供の実績が書類上で確認できないにも関わらず、訪問介護費を算定していませんか?

サービス提供責任者について

サービス提供責任者は、常勤専従です。介護保険外のサービスに従事していたり、併設施設の職員として従事したりすることはできません。また、訪問介護計画の実施状況や評価について利用者や家族に説明する必要があります。

〇 サービス提供責任者が介護保険外のサービスに従事していたり、併設施設の職員として従事していたりしませんか?
〇 サービス提供責任者の業務に主として従事する者の場合、当該サービス提供責任者が訪問介護員として行ったサービス提供時間は1月あたり30時間以内となっていますか?
〇 2人の訪問介護員による訪問介護を提供する場合は、利用者又はその家族等の同意を得て、その理由(必要性)を居宅サービス計画又は訪問介護計画等に明確に記録していますか?

訪問介護員について

訪問介護員の員数は常勤換算方法で2.5人以上となっています。併設の介護事業所で働く介護職員が訪問介護員を兼務する場合、勤務表や雇用契約書で勤務実態を明確にしておく必要があります。

〇 訪問介護員等は身分を証する書類を携行していますか?
〇 喀痰吸引や経管栄養を行う訪問介護員は要件を満たしていますか?
〇 サービス提供記録は、サービス提供を行った訪問介護員本人が記録していますか?
〇 サービス提供時間については、居宅サービス計画に位置づけられた時間ではなく、実際にサービスをした時間を記録していますか?
〇 訪問介護員に資格証(合格証ではなく登録証)を提出させ、事業所で保管していますか?

その他について

〇 入浴介助について、利用者が入浴を拒否しているという理由から、居宅サービス計画に位置付けがない清拭を行っていませんか?
〇 特定事業所加算を算定している場合、訪問介護員ごとに個別研修計画を作成していますか?
〇 1回の訪問サービスにおいて身体介護と生活援助が混在するサービスを提供する場合、サービス提供記録においては個々のサービスにおける提供時間を記録していますか?
〇 同居家族がいる場合にも、訪問介護の生活援助(掃除等)を提供していませんか?

居宅介護支援事業

ケアマネジャーについて

管理者は主任ケアマネジャーである必要があります。令和9年3月31日まで経過措置が延長されており、令和3年3月31日時点の管理者は引き続き管理者を続けることができますが、管理者が交代する場合は主任ケアマネジャーでなければいけません(ただし、配慮措置の適用が用意されています)。

〇 ケアマネジャーの退職に伴って変更届出書が提出されていますか?

居宅サービス計画について

居宅サービス計画は、介護保険サービスを利用するためのかなめであり、欠かせないものです。

〇 居宅サービス計画の新規作成に当たってサービス担当者会議を開催していますか?
〇 サービス提供の開始の際に、あらかじめ利用申込者又はその家族に対して、複数の指定居宅サービス事業者等の紹介を求めることが可能であること、居宅サービス原案に位置付けた指定居宅サービス事業者等の選定理由の説明を求めることが可能であることについて文書を交付して説明していますか?
〇 サービス担当者会議に欠席した担当者にも,照会等により専門的な見地からの意見を求めていますか?また、その意見について記録を残していますか?
〇 居宅サービス計画について利用者の同意を得た後にサービス担当者会議を開催していませんか?
〇 居宅サービス計画に位置付けた指定居宅サービス事業者から個別サービス計画の提出してもらい,居宅サービス計画と個別サービス計画の整合性を確認していますか?
〇 予防から介護への区分変更申請を行った利用者に対し、介護保険サービスを利用している場合に申請中の居宅サービス計画(暫定ケアプラン)を作成していますか?
〇 居宅サービス計画作成後のモニタリングのために、特段の事情のない限り、少なくとも1月に1回は利用者の居宅を訪問して、利用者に直接面接していますか?
〇 居宅サービス計画に訪問看護などの医療系サービスを位置付ける場合は,主治医等の指示があることを確認し,その記録を残していますか?
〇 居宅サービス計画に福祉用具貸与を位置付ける際は,その必要性を明確に記載していますか?

最後に

実地指導は必ず訪れるものと考えておきましょう。来ないかもしれないと書類の不備をほっておくと時の経過とともに膨大な不備のある書類の山となり、後日、体裁を整えようとしてももう手が付けられなくなります。また、職員の退職があった場合に、記録をさかのぼって作成することは困難になります。「来ないでください。」と祈るより、「いつでも来てください。」と考え方を切り替えて、日々の書類の記録をおろそかにしないほうが、介護サービスの質の向上につながります。介護サービスはPDCAサイクルが基本です。やりっぱなしでは職員のやる気やモラルは低下してしまうと思います。

そして、実地指導はその機会を活かそうと考えた方がお得です。介護保険法の改正や報酬改定が行われていても介護事業所のアップデートが適切に行われているとは限りません。職員が日ごろから疑問に思って仕事をしているかもしれません。実地指導は、行政に直接質問できる機会です。わからないことを明らかにして自信につなげることは、明日からの介護サービスの提供の大きな礎になります。指摘事項がゼロだった場合(その場の口頭注意のみで、報告を要さないもので終わった場合でも)、一日頑張った甲斐を実感でき、とてもすがすがしい気持ちで、役所の皆様をお送りできますよ。

参考URL

「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」(介護保険最新情報 Vol.730)(WAMNETのホームページが開きます)
各介護保険サービスの標準確認項目で、指導官が実際にこれをみながら実地指導を行っており、一覧なので見やすいと思います。

藤尾智之氏
税理士・介護福祉経営士

1996年、法政大学経済学部卒業
2000年、社会福祉法人に入職後、特別養護老人ホームの事務長として従事する。
2011年に税理士試験に合格し、大手税理士法人を経て藤尾真理子税理士事務所に入所。介護、障害を中心とした社会福祉事業に特化した経営サポートを展開する一方、社会福祉法人の理事や監事、相談役を務める。
著書に「税理士のための介護事業所の会計・税務・経営サポート」(第一法規)がある。
さすがや税理士法人URL: https://fujio-atf.jp/